Tomoko’s Violin Diary 第一章バイオリン物語15

 Life

ーNWS入団


前にも説明したが、ここでもう一度、NWSの説明をしておく。
NWSは日本語で言うと、

オーケストラの達人になるためのオーケストラ

と言うのが妥当かな?
入団オーディションの倍率を聞いても分かるように、当時(今はよくわからないけれど)のNWSのレベルはとても高く、そこら辺のオケよりいい音楽を生み出していた。
事実、NWSから超一流と言われるオケ、例えばシカゴ、ボストン、サンフランシスコなどに移籍する人が少なくなかった。

普通のプロオケと違うのは、任期は大体3年で、その3年の間にNWS以外のプロオケに移籍すると言う決まりがある。その間にゲストで来る、ソリストや、オケの人のレッスンを受けるのはただ。オーケストラの達人になるためのオーケストラなのである。
その間、もちろんお給料もでる。

VISAの関係で10月からの入団となった。
ほとんど英語も喋れないままマイアミに移った。
映画で出てくるそのままのマイアミビーチ。住んでいるマンション(オケの団員全員が住んでいる2棟のマンション)から歩いて2分のところにあのマイアミビーチがある。
ボストンとマイアミは180度何もかもが違う。ちょっとしたカルチャーショック。
マイアミビーチはクラシックというよりはレゲーとかポップスとかが似合いそうなところだった。
ここに知り合いという知り合いもいないまま来てしまった。
やることが無いからお仕事が始まるまでの数日間はずっとバイオリンをさらってた。

そしていざ、仕事が始まる。

最初に弾いたプログラムで覚えているのはラフマニノフのピアノ協奏曲の第2番。

好きな曲だった。

新しい団員の中で弾くのは緊張する。

それなりにさらって行ったと思う。

そして、指揮は音楽監督のマイケル ティルソン トーマス。サンフランシスコの音楽監督を兼任されている有名な指揮者だ。この人にはこの夏北海道のPMF(Pacific Music Festival)でお会いしている。もちろん彼の指揮で演奏もした。

彼の指揮は美しい。今でもそう思う。マーラーやガーシュインなどを振らせたら魔術師のように音楽を操る。

比べるのもおこがましいが、私と全く違う世界観の人で、色んな景色や、色、感情を見せてくれた。今も超一流のオケで指揮を振る傍ら、このNWSでも音楽監督を勤めていらっしゃる。

音楽監督のマイケルの前で、NWSにいる時に個人的に3度ほど弾いたと思う。その時に音楽について、3Dのように立体的に色んな情景を説明してくれた。

彼自身、仕事の合間に絶えずスコアを勉強しているとよく私たちに話をしてくれた。音楽に対しての姿勢は真剣勝負を感じさせられる。

よく、Youtubeで色んな交響曲の解説をしていらっしゃるが、実にその解説が分かりやすく、面白い。プロコフィエフのピーターと狼のナレーターもされたことがあるが、プロの俳優さんだった。彼はよく、”音楽はSHOWビジネスだ。体全体で音楽を表現するんだよ!’’ と私たちに語る。彼はいつも指揮を通じてもそれを私たちに見せてくれた。

後にシーティングオーディションをして、アソシエイトコンサートマスターという経験もさせてもらえた。

もう一つ、新しい団員はオケの前列に出されて、マイケルからオケの中で、どういうところを改善していくべきかなどのコメントをもらえる。

これは、自分がみんなと一緒に弾いているときにどんな事をしているか客観的にみてくれる人がいるので、とても勉強になる。これはNWSに入って得られるおおきな特典。

他のプロオケでもプロベーションと言われる使用期間中は色々と、指揮者や、首席の人、スタンドパートナーの人たちに、注意点を指摘されるのであるが、その短期間の間に直せない事があると、折角受かったオーディションもパァ。仕事契約の更新がなくなり、また新しいオーケストラのオーディションを受けなければいけない。

なので、NWSで、自分はどういう弾き方をしていて、どういうところを直さなければいけないのか?を指導してくれ、丁寧にその直す指導までしてくれるというシステムはものすごく有難い事なのである。

少しでも良いオケに入れるよう日々常に努力している団員と一緒に生活するのは、心強かったし、良いプレッシャーにもなった。

もうちょっと言えば、苦しくもあった。

オケの仕事の後帰ってオーディションの練習をしていると、同じオケスタが他の部屋から勿論聞こえてくる。疲れてちょっと休憩したいと思っても、他のメンバーが練習していると、自分はサボっているような感覚に襲われ、心身的に健康的じゃなくなる時もある。

’’自分は自分のペース’’って思えるほど、その時は強くなかったし、周りもうまいから日々そういう中で生活しなければいけない状況が、だんだん私を強くもしてくれたのだと思う。まさに揉まれたという言葉がピッタリ。

練習時間が終わると、みんなビリヤードしに遊びに行ったり、プールサイドで飲みながら遊んだり、ものすごく楽しかった思い出もたくさんある。

同じ年頃の団員が一緒に生活していると、悩みの相談とかも出来て助かったこともある。

一番印象に残ったのは、悩み事の相談をバイオリンのみんなでしていた。(とあるオケスタが難しくて大変というもの)今まで何の苦労もなく弾けていたオケスタがその言葉が言霊のように張り付いて、5年弾けなくなってしまった。いわゆるメンタルブロックというものだ。

メンタルブロックとは?

https://fb.watch/1MmUCxebu6/

今ではメンタルブロックという勘違いに惑わされる事もなく生きていける自信がついたが、その5年は本当に体が硬直するくらいで、似たような箇所が弾く曲に出てくると、本当に苦しい思いをした。

いつかこのメンタルブロックと言われる勘違いについても書こうと思うが、今回はオーディションの事から外れないようにする。

毎日毎日、誰かがオーケストラのオーディションの練習をしている。

日々こんなに音に囲まれて生活したのはこのNWS位だろう。

NWSでサラサーテナバラを演奏。左が私。