Tomoko’s Violin Diary
第一章 バイオリン物語11
ーオーケストラに入ろう
’’ボストンみたいに質問があればそれに答えてくれる素晴らしい教授陣が揃っているところで生きて行きたい’’
と切実に思う様になり、どうしたらアメリカに残れるか?を考えた。お金のこともあるし、VISAの事もあるし 仕事を取るしかない!! と考えた。
単純に、大好きなボストンにいるにはボストンシンフォニーオーケストラ(略してBSO)を受けようと考えた。世界のBSO,小澤先生のBSO。難しいのは承知、でも行動に移さないと事は進まない。という事で、ここがまた天国の様なところという理由の一つなのだが、NECのオーケストラの弦楽器の指導をしてくださってるBSOのセカンド首席のメリールースピーカーチャーチル(知る人ぞ知る、オケスタ指導の達人)先生に相談した。
先生は、快く個人レッスンを週一で引き受けてくださった。日本にいたらこんな先生にオケスタを教えていただく機会は絶対にない!!もう親に感謝だし、ここを紹介してくださった潮田先生にとても感謝してる。ソロは潮田先生、オケスタはメリールー先生。こんな贅沢なことが今までの私の人生の中にあるなんて!という出来事だ。今でもそう思う。
ーメリールーのレッスン
余談だけど、日本のレッスンは必ず ’’よろしくお願いします’’ から始まってた。少なくとも私の時は…だからメリールー先生のレッスンの時に、非常に困った。
英語に’’よろしくお願いします’’という言い回しはない。
Hello, Hi!意外にない。
それに、メリールー先生という言い回しもなく、博士号とか取っていればDr.—
とかあるけど、魚の様にアワアワしてたら、”メリールーでいいよ’’って先にいわれてしまった。香港だったらMrs.チャーチルとか言うんだけどその時は何も経験がない私は。メリールーteacherと滑稽な呼び方をしたんだと思う。
おまけに英語の聞き取りが悪いので、念のために辞書まで持参でレッスンにのぞんだ。
メリールーはその辞書を見て、必要ないよ。わかる様に説明するからって言ってくれた。
メリールーは女性なのに2mくらい身長がある。ちなみに私の身長は148cm、ガリバーと小人の図を想像していただくとピッタリ一致する。
とてもポジティブで生徒に希望を与えてくれる師匠だった。
私は身長が平均より低いせいか、メリールーに”sweety’’ “honey’’ などと呼ばれた。ベイビーみたいなもんだろう。赤ちゃん扱いだ。
メリールーは優しいが、オケスタに関しては絶対に妥協をしないし、限りなく安定した演奏を目指す人だった。
オケスタのレッスンはソロのレッスンとは全く違う。
オケスタは交響曲や小品の一部を抜粋したもの。でもその曲の背景や作曲家、書かれた年代はどんな時期だったのかを調べる様に厳しく言われた。
また、音程に関しては本当に厳しかった。
平均律音程ではなく純正律音程をとる様に指導された。
*平均律の音程:ド~ドの1オクターブをそれぞれの半音階(12個)で割ったものなので、1÷12=0.0833333333・・・・・ と、割り切れない値になってしまっている。だから、和音を弾いたときに微妙に濁って聞こえる。
*純正律の音程:純正律とは簡単にいえばピアノでは出すことのできない完全に澄み切ったハーモニーを造るための微妙な調整を施した音律である。管弦楽器にしかできないこの音律も体験していない人には何が何だか分からないと思う。しかし、聴き比べると、ピアノの音程よりも、純正律の音程の方がしっくりハマり、すっきりする。
そしてオケスタに欠かせないメトロノーム。
リズム、テンポに関しては、メトロノームの使い方から指導された。
ここで目からウロコだったのは、メトロノームの使い方を知らなかったことだ。
マシーンの様にいかに正確にミスなく弾くということがいかに難しいか思い知った。
スピッカートと言われる弓を弦の上で跳躍させる奏法だけでも曲によって違うし、それを正確に弾くことがいかに大変かを教えてくれた。
曲によっては5年くらい弾けないオケスタもあった。(メンタルブロックに陥ってしまい、ある一種のオケスタが弾けなくなってしまった。このことについては別の機会に解説しよう。)
後に、ボストンシンフォニーのオーディションテープを作ることになるのだけれど、16分音符がズラーっと2ページほど並ぶオケスタを録音しなければならなかった。その中のたった1音外しただけなのに、’’撮り直して’’と指示された。
オケでは大勢の人が同じ音を弾く。だから正確さが一番求められるのだ。
たった2分ほどのオケスタを大袈裟ではなく、50回は取り直したと思う。
世界に名の通るオケのオーディションレベルはとても高い。
最後の章で、オケスタの重要点を書く事にする。